2021.10.15 OFFICE

赤ちゃんと一緒に、世界をつくりたい | 気になるおとなりさんvol.6 弓井茉那さん

GROVING BASEに関わる人を紹介する、連載企画「気になるおとなりさん」。GROVING BASEを拠点とする人、サテライトオフィスにしている人、イベントの開催場所として利用する人、ふらりとコワーキングスペースやカフェに立ち寄る人……。GROVING BASEを活用し、様々なスタイルで活躍する人たちを紹介します。

第6弾に登場いただくのは、俳優・演出家の弓井茉那(ゆみいまな)さん。
国内外で活躍されてきた弓井さんは、現在「ベイビーシアター」の演出を手がけられています。

GROVING BASEの公式アンバサダーも務める弓井さん。
一体、どのような想いで活動を展開しているのでしょうか?お話を伺いました。

演じることは、コミュニケーションの課題を解決する、ひとつの手段でした

ー「ベイビーシアター」とは、そもそもどういったものなんですか?

ベイビーシアターは、赤ちゃんとおとなが一緒に体験できる、舞台芸術のことです。ヨーロッパで誕生してから、まだ30年ほどしか経っていない、新しいものなんですよ。

私はこのベイビーシアターが持つ可能性に感動して、「あかちゃんと一緒に世界をつくる」という目標のもと、活動をしています。

 

ー弓井さんが、演技や舞台に興味をもったきっかけを教えてください。

俳優を目指した一番最初の根っこの部分は、小学生時代のエピソードです。当時はSPEEDがブレイクしていた頃。「年齢が近い子どもたちが、テレビで歌って踊って大活躍している!」と、憧れていました。それで、仲が良かった友達同士でグループを組んで歌をつくり、子役のオーディションも受けてみたんです。

ただ、そのとき一緒にやっていた友達と、うまくいかなくなってしまって……。
私の中でコミュニケーションを課題に感じ、それを解決する手段のひとつとして「演じること」に興味を持ち始めました。

 

ーそこから先、どうやって演劇の道に進んでいったんですか?

高校生の頃に、京都でプロの映画監督と学生が一緒に作品をつくるという、素敵な機会がありました。そのオーディションを受けたら、なんと主役に抜擢していただいて!
もっと勉強したいなと、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)に進学し、ドキュメンタリー映画を学べる学科に入りました。

その学科では、映像と舞台を一緒に取り扱っていました。もともと演じることにも興味があったので、両方勉強していくうちに、どんどん舞台の方にのめり込んでいったんです。

 

ー卒業してからは、どのように過ごしていましたか?

最初は社会人として会計事務所で働きつつ、仕事を終えてから舞台の稽古に行って、土日に舞台をするような生活を送っていました。

京都には「京都府立文化芸術会館」という公共ホールがありますが、そこの演劇に出演したときに、「公共の舞台でやる演劇って面白いな」と感じたんです。ドイツなどのヨーロッパでは、公共の劇場が、きちんと俳優を雇用しているんですね。私もそういった俳優を目指したいなと、その舞台の翌年に上京をしました。

東京では、公共ホールが運営している研修所に通い、演劇を学び、そこからフリーランスの俳優として活動をスタートして。オーディションをかたっぱしから受けて、すべての役はそこで勝ち取ってきました。マリオでスターを取ったときのように、オーディションを受ければ合格する、みたいな無敵の時期もあったんですよ(笑)

GROVING BASE会員インタビュー

ベイビーシアターが持つ可能性を感じて、心が震えたんです

ーこれまで演じた作品で、特に印象に残っているものはありますか?

フランスの「アヴィニョン演劇祭」という世界三大演劇祭で、正式に招聘された作品に出演できたことが、私の小さな自慢です。そういった日本人は、数えるくらいしかいないんですよ。

フランスの演出家の方と組んだ作品だったのですが、もっとヨーロッパの方と一緒に演劇がつくりたくなり、ドイツに移り住むことにしました。1年間暮らしながら、劇場で演劇教育の仕事をしたり、研修の仕事をしたり。

その海外生活の中で、たまたま訪問した南アフリカで、人生を変える出会いがあったんです。

 

ーそれは、どんな出会いだったんですか?

その方は、南アフリカにおける、ベイビーシアターのパイオニアでした。

もともと、ベイビーシアターの概念は知っていました。実はドイツで暮らしている間、日本に一時帰国をして、一回だけ公演をしたことがあったんです。そのときはヨーロッパでベイビーシアターをやっている人の映像を見て、「面白そう!」とピンと来て、挑戦してみました。ですが、誰かに教えてもらったわけでもないですし、失敗も多くて……。しばらくはできないな、とふさぎ込んでいた中での出会いでした。

南アフリカは、日本よりも若い年齢で出産される方が多く、お母さんたちの孤独も深刻です。
ですが、その方はベイビーシアターとして劇場をお母さんたちに開き、雑誌を読んだり、ジュースを飲み放題にしたりと、きちんと自分の時間を持ってもらうような取り組みをしていました。その間、劇団員が赤ちゃんの面倒を見る代わりに、色々なアートを見せて反応を確かめるという、win-winな関係と場がつくられていたんです。

その方も、スタートしてまだ3、4年くらいのタイミング。ただ、これを続けていけば、お母さんたちの意識や、周りの目線、赤ちゃんを見る大人の目が、間違いなく変わります。ベイビーシアターが持つ可能性を感じて、お話を聞きながら、心が震えて泣いてしまいました。そしてこれは、私の人生をかけてやる意義のあることだなと、直感的に感じたんです。

ベイビーシアターをやるなら、まだほとんど認知されていない日本で、そして私の地元である京都からスタートしたい。そう決意して、2017年に帰国し、活動を始めました。

GROVING BASE会員インタビュー

世界の美しさや面白さを、赤ちゃんが改めて教えてくれる

ー活動の中で、印象に残っているエピソードはありますか?

「子どもが内向的」と心配されている方と、偶然知り合ったことがありました。
ずっともじもじしているし、習い事をさせた方が良いのかなと悩んでいたので、ベイビーシアターに誘ってみたんです。すると、そのお子さんの反応が、びっくりするくらい本当に良くって!目をキラキラ輝かせて、そこにいる誰よりも演劇の世界を楽しんでいる様子が伝わってくるくらいでした。

何より、そのお子さんの様子を、親御さんがとても嬉しそうに見つめていたのが忘れられません。「うちの子が、こんな風な反応をするなんて思わなかった!」と、終演後に話しかけてくださったのも感動しましたね。その日からきっと、親と子の新しい関係が始まったんだな、と思いました。

赤ちゃんと大人とでは、同じことを見たり聞いたりしても、捉え方が全然違いますよね。私は、大人がなんとなく見過ごしてしまっている世界の美しさや面白さを、赤ちゃんが改めて教えてくれているような気がするんです。人生ってこういうものだよね、毎日ってこんな感じだよねと、大人が経験則でつくってしまっているものを、もう一度見つめ直してみるような。そんなきっかけになったら良いなと思いながら、場をつくっています。

 

ー活動をする中での苦労はありますか?

高い目標を持っていたとしても、公演とワークショップだけをやっていては、やっぱり先細りになってしまうなと感じました。特にこういったご時世の中、会場と時間を限定した上で人が集まるのって、普通に考えたら皆さんも大変だし、手間もかかりますよね。ただ、そういった空間だからこそ生まれるものはあるので、それはきちんと守っていこうと。一方で、なかなか劇場に来られない方もいますので、もっと価値観を広げていく方法はないかなと考えるようになりました。

今年の7月、ベイビーシアター専門のシアターカンパニー『BEBERICA』として、きちんと法人化をさせました。個人事業主だった頃は、毎日何となくでやっていたこともありましたが、会社にしたことで、3年、5年と長いスパンで計画を立てられるようになってきています。

ただ、経理の仕事は大変で……。きちんとやっている皆さんのこと、すごく尊敬します(笑)

ベイビーシアターの文化を、京都から

ー最近、新しく取り組まれていることはありますか?

コロナ禍になってから、オンラインのコミュニティをつくりました。私はベイビーシアターを、劇場だけで完結するものと思っていません。公演に来る前も、家に帰った後もつながっていけるような、観客やファンの皆さんとの関係性をつくれるように頑張っています。

また、ちょうど今開発を進めているのは「ベイビーシアターキット」。台本や小道具をお届けし、お家の方に俳優になっていただいて、赤ちゃんと一緒に劇あそびを体験できるものです。

赤ちゃんって、毎日何かをパフォーマンスしているんですよ。私の子どもも2歳半になりますが、いつもよく踊っているんですよね。多分、人間の原始的な欲求の中に、「表現すること」が備わっていると思うんです。

キットを使うことで、赤ちゃんの表現をお母さんやお父さんも一緒になって体験できる、新しいコミュニケーションになったら嬉しいですね。年内にテスト版を作って、来年には商品化ができるように、少しずつ展開していけたらと考えています。

 

ー最後に、弓井さんのこれからの目標を教えてください。

大きなビジョンとしては、「赤ちゃんを社会の一部として、当たり前の存在にする」ということです。例えば、こういったインタビューの場にも赤ちゃんがいて、一緒に場をつくっているような……。赤ちゃんは議論はできませんが、大人たちが集う場にいて、お互いに刺激を与えあっていけたら良いなと思います。

もちろんそのためには、小さなステップがたくさんあります。まずは、赤ちゃんと一緒に色々なことを面白がるところから。そして、いつでも訪れることができるベイビーシアター専用の劇場を、いつか京都につくりたいと思っています。

それは100年後の話かもしれませんし、意外と早くに実現できるかもしれません。そのために、毎日の一歩一歩を、きちんと積み重ねていきたいですね。ここ京都から、日本中にベイビーシアターの文化を発信できるよう、頑張ります!

【公演情報】

あかちゃんと大人のための演劇ワークショップ
『物語を旅する 〜お空のせかい〜』

2021年10月28日(木)11時・15時開演
京都市東部文化会館 創造活動室

赤ちゃんは14ヶ月まで。大人のみの参加もOKの最新公演です。
鳥になって、春夏秋冬を旅し、新しいすみかを探す旅に出る物語だそうですよ。
お近くの方はぜひ!

https://rohmtheatrekyoto.jp/event/65772/

弓井茉那(ゆみいまな)
俳優・演出家
https://www.beberica.com/

聞き手:小黒恵太朗(株式会社アイトーン)